ホイスト自主点検表のひな形|吊上荷重別の法令区分と点検項目

ホイストの点検表を天井クレーンと分けて用意する理由
ホイスト(電気チェーンブロック・電動ホイスト)は、天井クレーンの巻上装置として組み込まれることもあれば、単体で梁やレールに取り付けて使われることも多い設備です。同じ「クレーン等」でも、点検すべき箇所と法令上の扱いが天井クレーン一式とは異なります。
天井クレーンの点検表をそのまま流用すると、走行・横行の項目ばかりが並び、ホイストで実際に傷むチェーンやワイヤーロープ、フック、巻過防止装置の確認が抜け落ちます。逆に、単体ホイストなのに存在しないクラブトロリの項目が並ぶと、記入者は形だけのチェックを繰り返すようになります。
点検表は「現物と一致していること」が最も重要です。ホイストにはホイスト用の様式を用意してください。
吊上荷重で法令上の扱いが変わる
ホイストの点検義務は、吊上荷重によって段階的に変わります。自社の設備がどの区分かを最初に確認してください。
| 吊上荷重 | 法令上の扱い | 点検の考え方 |
|---|---|---|
| 0.5トン未満 | クレーン等安全規則の適用外 | 法定義務ではないが、労働安全衛生法の一般的な安全配慮として自主点検を行う |
| 0.5トン以上3トン未満 | クレーンとして規則の対象 | 始業前点検、月例の定期自主検査、年次の定期自主検査が必要 |
| 3トン以上 | 設置届と落成検査の対象 | 上記に加え、性能検査など手続き面の管理が増える |
0.5トン未満だから点検しなくてよい、という意味ではありません。小型のチェーンブロックでも、チェーンの伸びやフックの変形は荷の落下に直結します。法定義務の有無と、現場の危険の大きさは別物として考えてください。
自社設備の区分や手続きの要否は、所轄の労働基準監督署に確認するのが確実です。中古で導入した設備や、増設・移設した設備は、書類上の区分と現物が食い違っていることがあります。
ホイスト点検表に入れる項目
点検表は頻度ごとに分けます。同じ用紙に全部を詰め込むと、始業前に見るべき項目が埋もれて機能しなくなります。
始業前点検(使用するその日に毎回)
- チェーン、ワイヤーロープ:よじれ、キンク、素線切れ、著しい摩耗、変形の有無
- フック:口の開き、摩耗、亀裂、外れ止め金具が確実に働くか
- 巻過防止装置:上限で確実に止まるか、実際に軽く動かして確認
- ブレーキ:荷を吊った状態で保持できるか、滑り落ちないか
- ペンダントスイッチ(押しボタン):表示と動作の一致、非常停止の効き、コードの損傷
- 異音、異臭、発熱:試運転時の状態
月例の定期自主検査(1か月以内ごとに1回)
- 巻過防止装置、ブレーキ、クラッチなど安全装置の異常の有無
- ワイヤーロープ、チェーンの損傷の有無
- フックなど吊具の損傷の有無
- 配線、集電装置、開閉器、コントローラーの異常の有無
- 走行レールや取付部のボルトの緩み、変形
年次の定期自主検査(1年以内ごとに1回)
- 荷重試験(定格荷重に相当する荷を吊っての作動確認)
- 各部の摩耗量の測定と、限度に対する余裕の確認
- 電動機、減速機、軸受の状態
- 構造部分の亀裂、変形、腐食
1年を超えて使用しなかった設備は、使用を再開する前に検査が必要です。季節工程でしか使わないホイストは、この点を見落としがちなので注意してください。
記入例と、形だけの点検にしない工夫
点検表でよくある失敗は、すべての欄に同じレ点が並び、いつ誰が見ても同じ紙になっている状態です。これでは異常の兆候を拾えず、事故が起きたときに「点検していた」証拠としても弱くなります。
- 良否だけでなく数値を残す:チェーンのゲージ測定値、フックの口の開き寸法など、推移が分かる欄を設ける
- 異常時の欄を用意する:「異常あり」に丸を付けたあと、誰に報告し、どう処置したかまで書ける形にする
- 点検者の氏名を自筆で残す:押印だけの運用は、実施者があいまいになりやすい
- 判断基準を用紙に印刷する:「著しい摩耗」だけでは人によってぶれる。限度の目安を用紙上に併記する
点検表テンプレートの入手先と作り方
公的機関が公開している様式を土台にするのが早道です。厚生労働省の各労働局が、クレーン等の定期自主検査表と始業前点検表の様式を無料で公開しています。
クレーン等定期自主検査表・始業前点検表の様式(厚生労働省 山口労働局、PDF)
この様式はクレーン等に共通する項目で構成されているため、ホイストで使う場合は次のように手を入れてください。
- 走行、横行の項目のうち、自社のホイストに存在しないものを削る
- チェーンまたはワイヤーロープの測定値を書く欄を足す
- 吊上荷重と設置場所、機番を用紙の上部に固定で印刷する(複数台ある現場で取り違えを防ぐ)
天井クレーン一式の様式が必要な場合は、天井クレーン点検表の無料テンプレートを参照してください。記録の書き方と保存の考え方はホイスト修理・点検記録の書き方にまとめています。
記録の保存と、点検で異常が見つかったとき
定期自主検査の記録は3年間の保存が必要です。紙で保管する場合は設備ごとにファイルを分け、機番と対応させておくと、監督署の調査や事故時の説明で迷いません。
点検で異常が見つかったときは、直ちに使用を止めて補修するのが原則です。「次の休みまで」「この荷だけ」で使い続けた結果の事故は、点検記録が残っているほど責任が重く問われます。チェーンやワイヤーロープの交換時期の目安は、ワイヤーロープ交換時期と費用の目安とホイストチェーン交換のタイミングと費用相場で解説しています。
よくある質問
Q. 吊上荷重0.5トン未満のホイストにも点検表は必要ですか。
A. クレーン等安全規則の適用外ですが、点検表を作って運用することを勧めます。荷の落下による災害は荷重の大小にかかわらず起きます。書式は法定様式でなくてかまいません。
Q. 天井クレーンの点検表と1枚にまとめてもよいですか。
A. 設備が一体(天井クレーンの巻上装置がホイスト)であれば1枚で問題ありません。単体ホイストが別にある場合は、機番ごとに用紙を分けてください。1枚にまとめると、どの設備を点検したのか後から追えなくなります。
Q. 点検は誰が行えばよいですか。
A. 始業前点検は日常的に使用する作業者が行います。定期自主検査は設備の知識がある者が行う必要があり、自社で対応が難しい場合は点検業者へ委託するのが一般的です。
Q. 記録をExcelやクラウドで保存してもよいですか。
A. 必要な項目が残り、3年間確実に取り出せる状態であれば電子化でかまいません。ただし、担当者の個人PCだけに置くと引き継ぎで消えます。共有の保存先を決めてください。
Q. 点検を外注すると費用はどのくらいですか。
A. 設備の台数、吊上荷重、設置場所の作業性で変わります。複数台をまとめて依頼すると1台あたりの単価が下がることが多いため、工場内の全台を洗い出してから相見積もりを取るのが有利です。
まとめ
ホイストの点検表は、天井クレーンの様式を流用せず、現物に合わせて作ることが出発点です。吊上荷重で法令上の扱いが変わること、チェーンやワイヤーロープなどホイスト固有の箇所を漏らさないこと、そして数値を残して推移を見られるようにすることの3点を押さえてください。
公的機関の様式を土台にすれば、ゼロから作る必要はありません。自社の設備に合わせて項目を足し引きし、機番と対応づけて3年分を確実に残す運用に整えることが、安全と法令遵守の両方につながります。
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